(2008年9月3日掲載)

2008年は、「femme fatal (宿命の、運命の女)」がテーマです。

やはり、小説などから取材する月が多いかとは思いますが、
私なりの視野・視点で渉猟してゆきたいと考えています。

何卒本年も御宜しくお付き合いくだされば幸甚です。
 
 

9月のカクテル 【富姫】        \1.000

今月は、泉鏡花の「天守物語」より、富姫を。
播州姫路、白鷺城の天守に住まう
美しきもののけです。

うつしよ(現世)のファム・ファタルをこえています。
彼女のすべては蒸留され、刃物のように危険極まりない。
しかも甘美でなだらかです。
美、残酷、恐怖、愛情、すべてのエレメントが最高の品々。

つき従う女童、眷族たち。
この世のものならぬ雅致を遊びます。
城の五重から、優雅な風雅な釣り糸が下がってゆく。

「ここはどこの細道じゃ・・
          天神様の細道じゃ・・」
餌は白露。
秋草秋の花を釣り上げる趣向です。

繰り上げられる釣り糸・・
はらはらと胡蝶が秋草に纏わり、一緒に手繰りあげられます。



眉目秀麗な若き鷹匠、図書之助は、
あるきっかけで富姫に心奪われます。

そして。




グレイグース・ウォッカ・オレンジを氷の入ったコリンズグラスに注ぎ、
トニックウォーターで満たす。
レモン、ライム、オレンジのスライスをグラスの内壁に貼りつける。

最後にざくろのシロップを少量。


*今月のプレゼントはバカルディ・ジャパン株式会社様のバックアップを頂きました。お楽しみに!

8月のカクテル 【卑弥呼】        \1.000

今月は横光利一の「日輪」から取材を致しました。


全編にわたって音と光、色と匂いに充ち溢れた小説で、
菊池寛曰く、「映画劇としての面白さ」をもそなえた一篇です。


卑弥呼をいちど見たものは、
その美しき残像が心から去る事がない。
その玲瓏な声音は、いつまでも響いて。

つねに彼女は、男たちの強力なる思慕の対象。
国を越えて。

実力ある、力のある男たちは
単なる懸想に終わらない。
兵を挙げて、命を賭けても、
卑弥呼を得んためならば、何事もいとわない。

国や王権の争いをはらんでくる。

たびたび愛を殺され、国をも喪う悲しみは、
卑弥呼の、その美貌が連れてくる。
そんな自分自身に馴化し、
男を操る術を駆使し始めた卑弥呼。不弥の女。
奴の長羅に復讐し、邪馬台に君臨することになる。

まさに傾国の、あるいは興国の
超強力ファム・ファタル。

喜悦の中破滅した男たちは数知れない。




フローズンに仕立てたギムレットを、
赤白二層に重ねます。
ミントを飾ります。

*このカクテルをオーダーしてくださいますと、
(株)ペルノリカール・ジャパン様ご協力のミニチュアボトルを差し上げます。

7月のカクテル 【サンドラ】        \1.000

今月は、ヴィスコンティの映画「熊座の淡き星影」より採用しました。
 
 
若きクラウディア・カルディナーレが「サンドラ」役です。
このあまりにも美しく、かつ不健康な映画は
約40年前に撮影されました。
デカダンの香りを焚き染めたかのような映像です・・。
 
そういえば「ヴェニスに死す」の冒頭で、
アッシェンバッハ教授も船に揺られていましたね。
この映画では、
オープンカーでジュネーブからトスカーナの田舎町へと移動します。
風景を捉えながら・・。
 
なにかしら「非日常」へのスライドを、スクリーンを見つめている我々に
容易にさせてくれる周到なその準備に・・身を委ねてしまう。
 
音楽は、
フランク「前奏曲、コラールとフーガ」が全編を通じて流れます。
 
すべてにおいて、感覚が揺れる映画なんです。
 
テーマは「エレクトラ・コンプレックス」と「近親相姦」なんですが、
舞台の、その前時代的な貴族の館をフレームとして
違和感がありません。
耽美的なはかなさ、危うさを「自然に」存分にはらみます。
 
入手は若干難しい映像ですが、
「紀伊国屋書店」からライブラリーの一巻として
数年前リリースされています。
棘のある薔薇の花束を力いっぱい抱き締めれば、
自ずから血が滲みます・・。そんな映画体験はいかがでしょうか?





40ml  ワイン (メルロー)  
10ml  グラッパ        
10ml  アマレット      以上をステアし、氷入りのワイングラスへ注ぎます。
 
 
*このカクテルをオーダーしていただくと、(株)ペルノリカール・ジャパン様ご協賛のミニチュアボトルを差し上げます。

6月のカクテル 【夜長姫】        \1.000

今月は、坂口安吾の「夜長姫と耳男(ミミオ)」を取り上げます。


一点の陰りもない。
イノセンスそのものの純白なさまは、眩惑を通り越して
見る者を圧するかのよう。
はるかに美を超越しており、恐怖さえ兆す。

童女のようなその笑顔。そこに残虐は一切見えない。
しかし・・。

飛騨の匠、耳男は彫った。
耳男がノミを振るう弥勒菩薩には、蛇の血を毎夜浴びせる。
姫の笑顔の圧力が、そうさせる。

打ち克つには、抗するには
もののけの、荒々しい邪(よこしま)が要った。


・・・強烈な読後感に支配され、しばらく動けないこと必定です。
イエガーマイスター 35ml
アンゴスチュラ・ビタース 2ダッシュ
ウォッカ  25ml
シュガーシロップ  2tsp

以上をシェイクし、
カシスとブルーキュラソーのミックスをドロップします。

 
このカクテルには小さな贈り物を添えます。(ペルノ・リカール・ジャパン株式会社様よりの、お心づくしです)

5月のカクテル 【マダム・エドワルダ】        \1.000

今月はピエール・アンジェリーク(ジョルジュ・バタイユ)作の
「マダム・エドワルダ」より取材しました。

その眩惑的な閃光は、ひと固まりになって読者に襲いかかります。
音と夜。明と滅。男と女。生と死。


エドワルダの痙攣、奇跡の疲労感。
そして「おれ」はエドワルダそのものになる・・。

エロスもタナトスも「一緒くた」になり、答えなどない。
幸福、死、快楽、苦しみ、愛、痙攣、嘔吐がすべて織り込まれ、
なにかしら、常に「字余り」のふらつき感にさいなまれる。

黒衣を外套を裸身にまとうエドワルダ。
夜に溶け、夜に穴をあけてしまう硫酸のような女。
けだもののように、恥知らずな神。



パッソア・パッション   
ペルノ
カラント・ウォッカ
アンゴスチュラ・ビタース 

以上を均整のない、
アンバランスな量でプースカフェに仕立てます。


*このカクテルをオーダーしてくださったお客様には小さなプレゼントのご用意があります。

4月のカクテル 【ボテ・デュ・ディアブル】            ¥1.000

「ボテ・デュ・ディアブル」、
それは比類のない美しさをそなえた女。
抗いがたい、吐息のような魅力をたたえた女。
そして彼女は無垢で、純粋な悪魔。

今月はアヴェ・プレヴォの「マノン・レスコー」より取り上げました。

傍目、転落一途に、
カタストロフィーに身を投げたかのように見える
デ・グリュの人生。

マノンの無垢なその本能は、
結果彼に破滅的な選択ばかりをさせてしまうのです。
しかしそこに、
無意識に悦びを見出してしまうデ・グリュ。

グラスの底には「Parfait Amour」。
Perfect love、それは‘においすみれ’のリキュール。
ありそうであり得ない、完全なる愛。
ボンベイ・サファイア 30ml
オルデスローエ・フィルジッヒ 20ml
レモンジュース 10ml
ペルノ 1tsp

以上をシェイクし、パルフェタムールを1tsp沈めます。

このカクテルには小さなプレゼントを添えます。

3月のカクテル 【カルメン】            ¥1.000

数年前の「オペラシリーズ」でカルメンは取り上げてあるのですが、
今回は、よりファム・ファタル的印象が色濃い
プロスペル・メリメ原作の「カルメン」を素材にしました。

「カリに生まれて、カリで死にます」という台詞をのこすカルメンシタ・・。
ボヘミア女の、野獣のようなヒタナ(ジプシー)。
ボヘミアの血族は「黒い人」・「カレ・カリ」と呼ばれます。

フランスの作曲家が描き出した「カルメン」とは違い
そのファム・ファタルぶりは彫りがさらに深く、
ただの蓮っ葉ではありません。
赤くて黒く、狼のように情欲的で兇暴。そして周到でなげやり。

「ボヘミア女は深い軽蔑を込めたまなざしを男に投げつけたかと思うと、
部屋の片隅にトルコ風に座って、オレンジを一つより出し、
皮をむいて食べ始めた」
・・最悪の危機的状況でもこの調子。
ビースティー・ビューティー、カルメンシタ。

そんなカルメンに、眉間に花を投げつけられるドン・ホセ。
その激しい屈辱感は、すぐさまに快楽へと蒸留されてしまいました。
脳髄的M男だった、ドン・ホセ。

あとは真っ逆さまです。
約束された未来も、築き上げた地位も
黄金に見えた友情も過去のもの。

しかし、それが不幸であるとは果たして言えないのです。
ファム・ファタルの虜となったドン・ホセには。
ラ・ヒターナ・マンサニージャ・シェリー
30ml
カンパリ           15ml
ブルーキュラソー      15ml

プースカフェ・スタイルに重層的に仕上げ、氷を一個入れます。
マドラーを添えます。
*ステアした後には、色調が明滅し見る角度によっていろいろな色が現出します。 

このカクテルには小さなプレゼントも添えます。

2月のカクテル 【レベッカ】            ¥1.000

今月は「レベッカ」。ヒッチコックの映画から、です。
デュ・モーリアの原作ではなく、
ヒッチコック作品のイメージで創作しました。

ある意味、翻弄されるマキシム(ローレンス・オリヴィエ)は、
畢竟、新しい恋によって「幸せな男」に落ち着きます。

美しくも強いレベッカは、
人生の最期さえも自分自身で「設計」してしまいます。

運命までも「貪り尽くす」ファム・ファタル。
しかし彼女は、自分のいのちまで早送りをしてしまう。
・・しかし、この世の汀に、
センチメンタルな女に還るレベッカです。

マリアン(ジョーン・フォンティーン)は、ストーリーをかたちづくる女。
レベッカ(最後まで映像無し)は、ストーリーの要。


なにかしら、アルルの女(ドーデー)を
思い出してしまう私でした。

ビーフィータージン    20ml
フレッシュクリーム    20ml
キルシュ          10ml
プレーンシロップ     10ml

以上をシェイクし、カクテルグラスへ。

*このカクテルのオーダーには、小さなお土産のご用意があります。

1月のカクテル 【ナオミ】            ¥1.000

「痴人の愛」(谷崎潤一郎)から、ナオミを。

その、甘い花のような蠱惑的な接吻・・。
唇すら触れてはいないのだけれど、
内臓まで焼かれるほど扇情的。

男・・。
翻弄の手管とは重々分かっていながら、
愛の嵐のラビリンスを徘徊してしまう。

二律背反であろう「愛と憎しみ」は
水天彷彿となり、それから獣となる。


スタンダード・カクテルにもある「メアリー・ピクフォ−ド」では
愉しさがないので、創作いたしました。
●ウォッカ  
●カンパリ
●グランマニエ コルドン・ルージュ

以上をほぼ同量づつ、シェイクします。
ほの甘きコルドン・ルージュ(赤き紐)は、
二人を繋ぐ、運命の赤い糸から出来ています。


*このカクテルのオーダーには、
 小さなプレゼントのご用意があります。


2007年に掲載したカクテル

2006年に掲載したカクテル

2005年に掲載したカクテル

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