Essay
2004年 熊本日日新聞 エッセー掲載済原稿
プロフィール
宮本 眞
1963年生まれ。
血液型O型。 趣味好物愛好物 他県でのバー巡り、映画、マティーニ・オン・ザ・ロックス、チーかま、息子、飲み過ぎる寝酒、読書、うたた寝、休日の夕方のエビスビール、ニュースチャンネル、ご汁の味噌汁、たまに食べるとんかつ、ソニック・ラブ、靴磨き、天草の野菜、公園
第一回 『バーテンダーの独り言』
熊本、夜の街並み、銀杏通り。 私のバーは、約二十年来そこにあります。二十歳の齢で開店いたしました。当時からお越しのお客様方は、思い出をフィルタリングなさって、良い思い出だけを携えてくださっているかのようです。いや、それはお客様方の優しさかもしれないですね。 沢山のバーでいろいろな物語、いろいろな風景が毎夜演じられてゆきます。いままで、当店でもそうでした。これからもきっと、「出演者」は増えてゆく事でしょう。同じ演目のロング・ランではありません。そう、バーテンダーは、毎日違う映画に身を浸しているかのよう!カウンターの中は、私達にとって定点観測的「ボックス・シート」なんです。ある意味。グラスを磨きながら・・・。 聞こえてくるけれど、耳にとどまらないことが沢山あります。とどめない・・そういう構造になってくるんです。バーテンダーの耳というものは。友人との時間。恋心の時間。仕事についての熱い語らいもあるでしょう。そして、バーテンダーとの他愛ない会話も。バーではくつろいでくださいね。そして、携帯電話はマナーモードに。少しだけ、好みのお酒の知識も持っていてください。カクテルは味わいと香り、色調のシンフォニー!それぞれのお客様方の、素敵な本当の「BGM」は、交響楽のようなカクテルであったり、熱情ソナタのようなワインであったりするのです。
第二回 『良い時間』
カクテルというものは、ワカラナイ。第一、ムズカシイ。お店にメニューがあったとしても(メニューのあるバーは少ないのです)どれが今の私に合っているのかよく判らないし、過去の経験に頼ってみても、いまいちヒラメカナイ・・。そんなご経験、おありですよね。 瓶に入っている、ある意味農産物的製品とも言えるワインや、ウイスキー、焼酎とかとは違いますから。オーダーも簡単じゃない。ケッコウ苦労してしまったりするわけです。バーで美味しいカクテルにありつくまで。面倒だから二の足を踏んでしまう。バーに行こうかなぁ。カクテルって美味そうだなぁ。と思いつつ「やっぱり居酒屋&スナック攻撃だ!今日も。」に、なってしまう・・。そんな貴方に上手なバーの使い方を!
まず、バーに行って、カクテル名でオーダーする必要はないということです。良いバーテンダーは、お客様を良く理解しようと必死です。お客様の状態を知ること。時間帯、その日の気温。そのお客様がはじめてのお越しではない場合、過去の情報も活用します。あるいはお客様の「香り」で情報を得ることもあります。焼き肉とか、炙った魚の香りは、すぐに判ります。そのお客様の気持ちになる。そんなとき、もし自分ならこんなものを飲みたい。そんなことを考えるわけです。強さ弱さ。時季のフルーツ。甘酸味。冷たさ。喉で飲みたい。あるいはゆっくりグラスを傾けたい・・。情報を沢山バーテンダーに与えてください。さて、美味しいカクテルの準備は完了!あとは、気分の良い時間をバーでお過ごし下さいね。
第三回 『ご予約席』
当店のカウンター席、一番奥のスツール。数年前まで、10時を回る頃迄は、「ご予約席」のプレートを必ず置いておきました。ゆっくりした平日も、忙しい週末も。週の半分はお越しになる、あるお客様のために。 そのお客様、少し足許に不自由を感じてらっしゃるのですが、ある夜お越しの折り、まだプレートを用意していなかった頃に、お席を確保できない状況が生じたことがあったのです。その時の落胆のご様子は、重い踵を返すその佇まいにありありと見てとれました・・。そして、次の夜から「ご予約指定席」を必ず設けることに。 1920年代にお生まれの、激烈、躍動の日本を生きた方です。靴は奥様によって常に磨かれています。毎日、スーツアップして、カクテルバーを散策なさるのです。若い頃からそうだった、と仰る。そんな或る夜、「サイドカー」のお話。このカクテルは、御来店時に必ずお召し上がりになる一杯。「今まで幾杯のサイドカーをお飲みになられたのですか?」私としては、無邪気な質問でした。私とそのお客様とで、冷静に試算してみました。思わぬ巨大な数字が電卓からはじき出されてきました。その数およそ2万杯!私たちはしばし顔を見合わせ、そして笑いました。「世界一、サイドカーをお飲みでらっしゃるンじゃないですか?」と私・・。 きっと今は、天国のバー・スツールでサイドカーをオーダーしてらっしゃいます。私の店の「ご予約プレート」は、出番が少なくなりました。
第四回 『Bar BROWN DOOR』
「Bar BROWN DOOR」 そこは、行きたくても、誰も行けないバー。 「ベトナム戦争」が、霞のように被うバー。店の入り口に、MPが立つ。米兵しかやってこなかった。私はまだ子供だった。やっと、小学校に行き始めた頃。サラミが天井からたくさんぶら下がっている。配給ジッポーで、それをあぶって食べていた外人を覚えている。 アポロ11が飛んだとき、[Fly Me To The Moon]が、極東放送で一日中流れていたらしい。ラスティー・ネイル(スコッチベースのカクテル)を飲んでいた将校が、「Scotch Rocket!」と叫ぶ。アメリカ万歳だ。たちまち一人が、「バイ・ホールアラウンド!」(店中の人におごること)。隣の軍人がまたすかさず、「バイ・ネクストアラウンド!」。フライ・ペイ(危険手当)があるから、飛行機乗りは気前が良い。家族への送金は、軍が代行してくれる。ドルも強かった。常連ばかりだけど、必ずしも生きて帰ってこない「常連」たち。その酒の裏側には不確かな「死」が鋲(びょう)打ちされている。・・ 音楽に、酒に、望郷の堪えざる想いに酔ってしまった若い将校の心のつぶやきが、今の「Bar States」の店名の由来です。「I wanna go back to states.」~故郷(くに)へ帰りたい。 「Bar BROWN DOOR」、山口の、岩国。米軍基地の、近くにあったバー。 そこは、お袋と、親父がやっていたバー。
第五回 『グラスと心を傾けて・・』
バーでは、音楽というものはとても大事な要素なんです。『あなたと夜と音楽と』ではないけれど。よくお越しのお客様の中にも「私の一曲」を心に携えてらっしゃる方が、沢山おいでです。そんなお客様の「一曲」は、リクエストを頂いたとき、偶然そのお客様のその「曲」がかかったときのリアクション、会話などで記憶しておきます。過去の思い出とか、その曲にまつわる思い入れ。何かがおありなんです。 そんなお客様がまたお越しの折りは、出来るだけ自然に「その一曲」をおかけします。すると、やはり表情から和んでくださいます。「ありがとう。」のお言葉を頂戴することも。当店ではよくある光景なんです。そんなシーンは、あまり立て込まない平日が良いですね。忙しいときの、お客様方の適度なざわめきも、ある意味良いBGMだったりしますけれど。音楽というものは色褪せず、そして記憶を呼んでくれます。映画音楽も、聴けば思い出すシーンがあるものです。それぞれの人生も一緒かな、なんて思います。音楽で思い出すあの頃、あの思い出。記憶の中で、更にフィルタリングされて美しくなったり。 CDもいいけれど、レコードの音もいいですよ。何よりお酒に馴染みます。電気信号ではない「舞い降りてくるような」アナログな音も、いいものです。ジャズ、映画のテーマ、クラシック、ソウル。私も音楽が大好きです。勇気づけられたり、ホッとしたり。思いに浸ってみたり。思えばお酒とそっくりですね。音楽って。
第六回 『今夜はホーム・マティーニ』
マティーニという、とても有名なカクテルがあるんです。よく、「キング・オブ・カクテル」などと言われています。とても美味しいんですよ!材料はいたってシンプル。作り方も至極カンタンです。ジンとヴェルモット(香草系ワイン)を混ぜるだけ。このカクテルはチャーチルやルーズベルト、開高健やヘミングウェイ、それはもういろいろな人を虜にして参りました。オリーブを入れたり入れなかったり。レモンで香りを付けたり付けなかったり。シンプルさ故のヴァリエーションもあるわけです。バーテンダーがこのカクテルのオーダーを承ると、何かしら緊張したりするものなんです。バーではプロの道具を使って、ソリッドに作ったりしますから。 そんなマティーニ、しかし実はホームカクテルなんですね。欧米の習慣では。手軽に家庭で愉しむカクテル!私も自宅でよく飲むんですよ。オンザロックス・スタイルで。これはオススメです。第一道具がいらない。グラス、氷、そしてジンとヴェルモットがあればいいんです。このスタイルはその日の気分で強くも出来るし、優しく作ることも出来る。ジンを比率を増やすと、強くなるわけです。ヘプバーンの「サブリナ」でも、オフィスで作ったりしてました。ジャック・レモンの「アパートの鍵貸します」では、キッチンでジャグに大量に作っていました。最近の映画では「リプリー」。そして「007シリーズ」には必ず登場。・・さて、今夜あたり、如何ですか?
第七回 『良い脇役になりたい』
やはりカウンターというものは「男女の出会いの場」であることも、ままあります。そういった場合は、当初たいていバーテンダーを介してのごく自然な会話展開から、良い時間の流れから、という感じなんですが、いままで数回、結婚につながった明確な「出会い」を目撃しております。そのたびに、披露宴に呼んで頂きました。嬉しいものです。人生、いろんなところに転機があるなぁ、なんて感じます。 この間も、数年前当店のカウンターで出会い、結婚なさったご夫婦から、「今度転勤します」の電話連絡。行き先はベルギー。その数日後、小さな子供二人を連れて、店の入り口まで挨拶に来てくださいました。いろいろと話をしているうちに、当店のホームページ上で「ベルギー通信」という掲示板形式のコーナーを、奥様に担当していただくことに。それは実現し掲載はもう始まっていて、写真の美しさもさることながら、私は今や、とてもベルギーという国を身近に感じ始めています。いい縁(えにし)が、当店のカウンターから。思わぬ形で目前の液晶にあらわれる。楽しいですね。当店のホームページ、覗いてみてくださいね。きっと行きたくなりますよ。ベルギー・・。 今日も、明日も、当店のカウンターやテーブルに、お客様方がお越しになります。いろいろなことを考えると、やっぱり、お酒やバーテンダーは、良い脇役でありたい。主役たるお客様方に、良い時間を提供したい、と思ったりするのです。
第八回 『不文律』
私はバーテンダーなんですけれど、実は妻もバリバリの同業です。それぞれにカクテル・バーをやっております。バーテンダーどうしの夫婦っていうのは、結構珍しいらしく(結婚後、奥さんが店を手伝うというパターンはよくありますけどね)、「へぇ~。そうなんですか!スゲー。」なんて、お客様からなんとなくスゴがられたりするわけなんです。そんな感じで、いきおい、共通のお客様方もたくさん、それぞれの店にお越しになります。ん~、本当に嬉しいことです! そんな環境のなかなんですが、私達夫婦の間には「不文律」があるんですよ。たいそうなコトじゃないんですけど。それは当然のことで当たり前の事なんですが、それぞれの店にお越しになったお客様の話はお互いに一切しない、というものです。例外はもちろんありますけれど、私達の生活上での会話の話題にのぼることはありません。お客様方の大切なプライベートですものね。バーでお過ごしになる時間っていうものは。「あれ~、奥さんから聞いてないんですかぁ。」とか、お客様から言われることはあります。妻の店でも、同じシチュエーションがあったりするんでしょうね。まぁ、しかし、それはそれで・・。ところで、営業時間帯が全く一緒なので、行きも帰りも一緒です。普通の夫婦よりも、一緒に過ごす時間が長いんじゃないかな、とか思ったりします。・・お客様の話はしないんですけど、会話のない夫婦じゃありませんよ。心配ご無用!
第九回 『先生』
私、大学は途中で自主退学しました。大学でも担任みたいな先生がいらっしゃるんですが、理由を述べ退学届けを出しに行ったときだったか、いろいろな心配をしてくださいました。「大丈夫か?」「若すぎないか?」「大学通いながら修行を積んだらどうだ?」しかしその時は、もはやお袋と不動産屋回りをしていたのです。「バー・ステイツ」の物件探しに・・。大学を辞めたこの頃は、店のことしか頭になくて、目前でいろいろなことを話して下さっている先生の事なんて、正直、眼中にありませんでした・・。そしてその数ヶ月後、開店致しました! オープン当初はなかなか営業的にもうまく行かず、確かに苦しい時期もありましたが、そのうち、お客様方にも恵まれて、毎日少しずつ、色々なことを経験して。そんな中「バーテンダー技能競技大会」の事を知ったのです。トレーニングもそこそこに、無理矢理初エントリー。結果は全選手中下から二番目。当たり前ですよね。厳しい世界を知りました・・。それから5~6年後、その技能競技大会で優勝することが出来て、記事が小さく新聞に載った事がありました。そして数日後、営業中に花束を携えた見知らぬ初老の紳士がお越しに・・。満面の笑みで、「おめでとう。やったね!宮本くん。」・・退学届けを出しに行ったときの、あの先生だったんです。私は実は、お顔も覚えていませんでした。あとから厨房に行って、嬉しくて涙を拭いたことを憶えています。
第十回 『面接』
現在、バーテンダーを募集しています。嬉しいことに、男女を問わず沢山の方のご応募があります。まず、志望の電話がかかって、そして面接・・。大事な第一印象。私は、その人の特徴を拡大解釈する傾向がありますし、短い面接時間内にいかに効率良く、その人の個性や教養、人柄などを会話の中、仕草、表情に見出すか、などと考えて、笑っているけれど頭の中は高速回転!じつは今、目の前に座っているバーテンダー志望の方は、もしかしたら私なんかでは見抜けない、物凄い可能性を秘めているのかも知れない!なんて思ったりもするわけで、和やかに気合い充分なんです。色々な人がお見えになりますから、質問内容も色々。履歴書などを見ながら、表情を見ながら、自然にその人に則した会話へなってゆくんですが、私は必ずお聞きすることが一つあります。 それは食べる物の好き嫌いがあるかどうか、ということ。“大好き”は問題ないんですけど、“はっきり嫌う”は大問題!良いところ探し、美味しいところ探しの「放棄」ですから。そんな方はお酒にも人にも「好き嫌い」が出て来てしまいがち。カウンターを挟んで、バックバーのカクテル素材のお酒にも、お客様方にも責任を果たせなくなる要素を、あらかじめ持ってらっしゃる。・・面接のたびに、好き嫌いのない人であることを願うですが、実は、告白すると、私、十数年前にやっとめでたく納豆&梅干しの美味しさを自分内で発見できた人です!
第十一回『適応してくると』
バーテンダーの諸先輩の方々や友人を見ていると、不思議なことに太った人はほとんどいないんです。それは熊本だけではなくて、全国規模の同業の集まりに行ったときのことを思いだしてもそうなんです。どうしてなんでしょうね?何でだろう?私なりにちょっと考察してみました・・。」 やっぱり、立ち仕事です。日によっては十数時間立ちっぱなしは当たり前で、それが理由の一つなのかなぁ。そういえば高校の頃の冬休み、バイクを買おうと短期アルバイト。喫茶店の皿洗い。結構ハードで時間も長かった。慣れないこともあって、そりゃもう足腰はパンパンでした。毎日疲れ果てて帰ってました。今でも基本的に立ち時間は変わってないんですけれど、今では全然平気なんです。 もう一つ、カウンター内の環境も、あるのかも知れませんね。あっ!これが正解かもしれません!体が適応しちゃうわけです。やっぱり限られた空間、能率的な、的確な動きが必要になってくる。一人で取り仕切るにしろ、複数のバーテンダーでカウンターワークを行うにしろ、なにかしら体配り、気配り、目配り。太ってて、人同士の離合が大変なようじゃ、効率悪くて話になりませんものね。回りの自然に適応しちゃった動物みたいなものなのかも。からだが動きの必要性にマッチしてくる・・。私思います!減量、ダイエットを目指してらっしゃる方!バーテンダーは自然にやせることが出来ますよ!本当ですって。
第十二回 『国際的優勝ダイブ?』
ちょうど阪神ファンが道頓堀川に飛び込んでいた頃、スペイン南部へ行ってきました。世界45カ国の各国代表選手が集う「世界カクテルコンクール」がセヴィーリャで行われたのです。残念ながら我が国代表は入賞ならず!技術点では、常に最高位にランクされるのですが。欧州の審査員の、甘さ優先の味蕾構造にやはり苦戦。やはり相手は「世界テイスト」。考えるところ、多し。という感じです。勉強になりました! ところでスペイン南部といえばイスラム的風景、フラメンコ、そして「シェリー酒」。私達夫婦はスペイン政府から「公式ヴェネンシアドール(シェリーソムリエ)」を拝命しておりますので、そりゃもうワクワク。コンクールの合間に色々な醸造所を見て回ったり、作り手の話を聞いたり。もちろん沢山のシェリー酒を飲んできました・・。 シェリー産出域を滔々と流れるグアダルキビールという川があるんですが、シェリー酒を勉強する者にとっては「聖なる川」。ある日気分良くその河岸を散歩。そこで私達、「川の水に直接触れてみよう!」の思いつきコンセプトのもと、やおらデジカメ持って構図決め。私は水際で撮影係。「お~っ。いいね!」なんて言いながら。そこで私、突如足を滑らせてしまいましたの中へ飛び込んだ形です。全身ズブ濡れ、妻はオロオロ。「なんだよ!俺って阪神ファンかよ!」水から上がった私は意味不明な事を口走る。・・今となってはいい思い出です(?)。
第十三回 『熊本のカクテルコンクール』
先日、『第二回創作カクテルコンクール・熊本』というイベントが行われました。「カクテルを愛する人たち」がエントリーする大会で、毎年私達バーテンダー協会が主催いたします。観戦のお客様方も会場ギッシリ!楽しい大会でした!プロの間では、そういう競技会はよく開催されるのですが、その大会はいわゆるオープン競技、プロもアマチュアも同じ舞台で演技するのです。県内外より総勢24人。ゴルフの「全英オープン」とかと一緒なんですね。全国でもきわめて珍しいと思います。審査員もプロ二人、アマチュア4人で、エンドユーザーたるお客さま(おもてなしを受ける人)の視点を大事にしていて、本質的です。プロの試合になると、マニュアルがあってそのマニュアルを踏襲しなければならないし、審査員もバーテンダーのプロがズラリと並ぶのですが・・。 そういえばこの秋、女子高校生ゴルファーの宮里さんが並み居るプロを相手に2位に輝き、その後プロに転向しましたね。今大会でも、2位にアマチュアの方が輝きました!会社員の山口実氏(四一歳)。こよなくカクテルを愛し、おもてなしの心を携えてらっしゃる方です。プロバーテンダーの多くが、山口氏の後背を仰ぐ結果になりました。素晴らしいことですね!プロは「プロ」であるが故に「アマチュア」に学ぶべきことが沢山あるということです。エンドユーザーの視点に、ナチュラルに立つアマチュア・バーテンダー。勉強になりました!
第十四回 『本当にありがとう』
もうすぐ、開店20周年。私が40歳なので、ちょうど今までの人生の半分、我が店のカウンターに立っている事になります。思えば本当にまたたく間。有り難いことだなぁ、感謝しよう。と思うんです。面と向かってはなかなか言えないけれど、私がいちばん感謝し、誰よりも尊敬しているのは母。店の中では厨房で料理を担当する「店長」です。本当は「お客様方に感謝しています。」と言わなきゃいけないんでしょうけれど・・。 昔、母は女手ひとつで苦労して、家を一軒建てました。小さいけれどとてもきれいな、住みやすい、温かい家でした。理由があってうちは母子家庭だったんですが、当時私は高校生、妹はまだ中学生、祖母も健在でした。そして私を大学まで行かせてもくれました。私が大学そっちのけで飲食店のバイトに明け暮れはじめて、母は当時、かなり悩んだことと思います。毎日いつも疲れ果てて深夜に帰宅し、手荒れも物凄く、しかし私は本当に楽しかった。実は母も父も、昔はバーテンダーだったのですが、その血かもしれない、とそんな私を見て母は思ったのでしょう。 「眞、お店を一緒にやろう・・!」そして母は、苦労して建てた家を売り飛ばしました。そして、そのお金で「バー・ステイツ」が出来上がりました。狭い厨房で新聞読みながら居眠りする母。ドレッシングのボトルをカクテルシェイカーさながらシェイクする母。今日も美味しい料理をお客様に作ります。ありがとう。お母さん!